●人事を尽くして天命を待つか?●

 

まるで倉庫のようなこのシェルターには、セキュリティシステム……通称"アーム"に追われてきたものが多く滞在している。

 

パシフィカ・フォレスター、通称パフィはエトラスカのスラムで育った。裕福ではなかったが、兄弟と共に、たくましく生きてきたつもりである。
平凡に、毎日を一生懸命生きていたある日、突然この世界に飛ばされてきた。
いつも一緒だった兄はおらず、けれど、生きてさえいればまた大好きな家族に会えると、前向きにビル群を進んだ。
道中、きらびやかな一角に差し掛かると"アーム"に出くわした。チーターの俊足を持ってしてもそのシステムを振り払うことができず、けれど諦めずに必死に走った。
町はかなり広く、けれどやがて建物が減り、徐々に道がなくなり、必死に走りぬけた先は荒野だった。相当な道のりを走っているはずなのに、追跡はやむ気配がない。
視界の端に、ヒレ羽がついた巨大トカゲのような屍骸が映る。屍骸だとわかったのは、すでに骨が見えて体が少し砂にうまっていたからである。
それだけなら彼女はその場を通り過ぎただろう。だが彼女は足を止めた。その屍骸のそばに、小さな同型のトカゲが居たからである。
アームとはまだいくらか距離があるが、あのままアームがこちらへ向かってくればこの子はひき殺されてしまう。
「ごめんね、なんとか、生き延びてね!」
くるりと方向を変えると、そこからアームを引き離すように、屍骸から直角に走り始める。
じりじりと距離をつめられ、さらにはとうとう自分の足が徐々に失速をはじめた。もともとチーターは長距離には向かないので、500メートルを全力で走ったら休む、また走って休むということを繰り返していたのだが、それもそろそろ限界だ。
「万事休すってやつじゃん……」
普段は明るく輝いているパシフィカの猫のようなオレンジ色の瞳は、焦りを感じ少しだけ潤んでいる。
とうとう、追いつかれ、宙から手が降ってくる。思わず頭を抱えてしゃがみこんだ。
―――ガアアアアアン!!!!
派手な音と共に、アームが吹っ飛んだ。横倒れになったアームは修復されることなく、光の線となって消えていく。
「わ……思ったよりえげつない攻撃だったんですね……技術者だっていうから、もっとこう、電子でぱぱっとスマートな感じかと思ってました」
目が隠れるほど長い前髪の、金髪少年が控えめな声で呟く。
彼もまた道中、アームに襲われて、この轟音を奏でた主に助けられたのだ。そのときには目をつぶっていて、すごい音がしたかと思うと同じようにアームが吹っ飛んでいたので何事かと思ったものだったが、それを目の当たりにした。
とんでもなくクリーンヒットした『飛び蹴り』だったのだ。
「中途半端な鍛え方してないから。アンタも男の子ならしゃきっとしなさいよ」
「テオは、ルインがこわいんだよー。ねー?」
少年は背丈はそれなりにあるのに、そういって屈託なく笑っているウサギ耳のついた少女の後ろで、なにやらこそこそと隠れるように様子を伺っている。
「あっ、そうだっ!!あの子!!」
突然思い出して、パシフィカは走り出す。
「あ、こら、ちょっと!!一人じゃ危ないって!」
三人もパシフィカを追いかける。
「うわあ、ねえ、テオ!!あの子、すんごく速いね!!」
「う、うん」
少女は嬉しそうにチーターの娘を褒めている。つられて金髪の少年……テオも引きつった笑いを浮かべた。
やがて、なんとか追いつくと、彼女は大きな生物の屍骸の下にうずくまって、何かに話しかけている。
「よかった、無事で。この大きい子は……きっとお母さんだよね?でも、ここに居たらご飯もないし、キミまで死んじゃうよ……。ね、一緒にいこ?」
見れば彼女は両手のひらほどのトカゲのような生物の頭を撫でていた。
「ぴゃー。きゅ。きゅー??」
羽トカゲはそんなパシフィカを見上げ不思議そうに首をかしげていたが、彼女の意思が伝わったのか、腕をよじ登るとその肩に収まった。
「やっぱりゲームの中なんだねー?デザートドラゴンの亜種みたい。羽はえてるのははじめてみたけど!」
ものめずらしそうに、ウサミミの少女がそれを見つめている。
「この子デザートドラゴンっていうの?で、ゲームの世界ってどういうことなのかな?」
「多分、バーチャル世界に飛び込んでしまったんじゃないのかな?なんかゲームの中で見たような生物がたくさんいるし」
二人の疑問はもっともなのだが、ここにいてはまたアームが襲ってくるかもしれない。
「その辺の話はシェルターでするから。そっちの少年も服ぼろぼろだし」
「テオは来てくれるって!ね、おねーちゃんも一緒にいこうよ!」
助けられた後に半ば強引に、ウサミミのアズリエルと言う少女に引っ張ってこられたのだが、大分衰弱していると自覚もしているし、断る理由も特にないので少年は頷いた。
「えと……この子も一緒でも……?」
少女のほうは自分を促してくれているが、強そうな女性の方にも念のために尋ねてみる。ダメならば野宿でも何でもする覚悟はしている。
「いいけど……」
案外すんなり受け入れられた。だが、条件をつけられた。
「ただ、どの程度で成長するかもわからないし、この子が成長してじゃれたつもりでも破壊力がいかほどのものになるかもわからない。もしも手がつけられなくなったときに、貴女がこの子を倒さなければならなくなるかもしれない。その覚悟がある?」
「できるだけ、そうならないようにしつけます!それに、救う算段も探します。それでもだめだったら……」
切実そうなパシフィカを見かねてか、テオが思い切って口を開いた。
「そのときは、ボクも。ボクも手伝うから!いざって時は……ボクだってやるんだ!」
「ルインは厳しすぎるんだってばー」
「アズはのんき過ぎるのよ」
一応はOKということで一向はシェルターに戻ることとなった。

 

 

車という車は運転できる。送り迎えの高級車は勿論、荷物運びのフォークリフトまでドンとこいだ。
メガネをかけた中年の真面目そうな彼は、ホフヌング・フォーゲル。運転士をしていた。
「本当は空を飛べたら良いんだが……」
かつては飛行機のパイロットに憧れていたのだが、残念ながらその夢は今のところ叶っていない。
そんなわけでせめてもと、飛行機に乗せる物流の仕事をしているというわけだ。それなりに力の要る仕事なので、中肉中背だがそれなりに筋肉もある。
その日も彼は外でフォークリフトを自由自在に操っていた。
突然の飛行場での爆発。
その衝撃に吹っ飛ばされ、気がつけば知らぬ町に居た。
きらびやかな光に包まれたビル群はどこの都市だろう?アズーリアの電脳都市か、あるいはエトラスカの歓楽街か。
―――ビーッ!ビーッ!
奇怪で耳障りな警報と共に巨大な『それ』は現れた。
どんなときでも冷静に判断する。それがホフヌングの強みだった。
「……操縦者はいないようだな。自立したシステムで動いているのか……?」
だが悠長に観察している暇はなかった。『それ』……巨大なアームはこちらを標的として、襲ってくる。
「さすがに荷物のようにはいかなそうだ」
危険を感知して、何とかそれから逃れる。機械的な、癖のある動き。ある程度のパターンは読み取れたので、かわす事はそうそう苦ではなかった。ただ、相当にしつこく追いかけられ、さすがのホフヌングも息が上がる。
更に不幸だったことは、アームがもう一体追加されたことだろう。向こうから顔は端整だが少しマッチョ体質の、ストリートファッションに身を包んだ男が走ってくるのが見えた。……後ろに、アームを引き連れて。
「と、とと。あなたも追いかけられてるみたいですね」
ぼそぼそとしゃべるので、良く聞こえなかったが、そんなことを言っているようだった。
「えと、んと、いやですね、ボク、気がついたらあの鉄塔のうえの方にいたんですけど。ちょっと興味本位で立ち入り禁止と書いてある場所に進入したら、このザマでして、はい。それもですね……」
聞いてもいないのに、話しかけてくる。それも、ぼそぼそと、長々と。
「とりあえず、今は逃げるぞ。話は後で聞くから!」
始めは冷静だったホフヌングも彼の脈絡のない長話についには業を煮やし、話をさえぎって腕を引っ張った。
「は、はい、そうですね。どうもこれコンピューター制御で動いているようですし、稼動元は地熱を使っているようなので疲れ知らずといった感じですね」
端整なエルフの男はそれなりに鍛えているらしく、それだけしゃべっても息は切らせていない。ホフヌングよりも若い感じはするが、それでも少しだけ、感心する。
「も、も、も申し送れました。私、エドワード・ウォーカーと申します。公務員をしております。なんというか、あ、あまり人と積極的にしゃべったことはないのですが、こう、やっと人らしい人に出会えてほっとしましてね」
ところどころドモっているのはそういうことらしい。コミュ症なりに一生懸命しゃべっている顛末のマシンガントークというやつだ。
結局、こんな感じでエドワードの軽快なトークが続き、最終的に彼らも駆けつけたルインの一撃に―今回に関しては二撃というのが正しいが―救われ、アズリエルに引き込まれることになるのである。

 

 

パシフィカらとは逆に、バアルのように自らやってきたものや、なぜか気がついたときにはすでにここに居たものもそれなりに存在する。

 

「ねね!!かみさまって、すごいんだよね???」
目を輝かせて、アズリエルと言う少女が身を乗り出している。
「そうだよ。オジサン、本当に神様なのに、みんな信じてくれないんだよねえ。すっかり信仰もなくなっちゃってさあ」
……彼の名は、カミ=サマ。
見た目は完全な中年のオッサンである。彼はいつの間にか、このシェルターに住み着いていた。
神様だと言い張っているが、ここへ着てからその実、特に何をするわけでもなく毎日食っちゃ寝でぐうたらしているだけなので誰も信じるものはいない。
だが、この小さなウサミミ少女は、神様という言葉に相当ときめいているらしく、時間さえあれば彼の傍に来て質問攻めをしているのである。
「そっかー。なんかのゲームの設定に、神様は信仰がないと力が出せないって書いてあったなー。おじちゃん、それじゃ困っちゃうもんね?」
こんな具合なのである。
「そうそう。みんなもっと、オジサンの事ちやほやしてくれて良いと思うんだよぉ」
自称神様もわざと、みんなの集まっている部屋の方へ向けて大きな声をあげている。
「じゃー、アズがオジサンの信者になってあげるね!!」
「おー、素直な良い子だなー、アズちゃんは。オジサン、嬉しくてなでなでしちゃうよー」
ぐしゃぐしゃになるくらいに童子の頭を撫でてやると、少女は嬉しそうに屈託のない笑顔を浮かべている。
チカヤがそれを見て少し微笑んだ。
「お、よかったな、アズ」
「うん!!」
あとでチカヤに聞けば、親に褒められることもなく、ほとんど構われずに生活を送ってきたのでそんな些細なことが少女には嬉しいのだろうということだった。
余談だが、誰も見ていないところで、あとでカミのところにルインが「これあげるからちゃんと仕事してよね」と酒を持ってきたので「ルインちゃんも頭なでなでしてあげようか?」といったところ「セクハラ!!」と顔を真っ赤にしていわれたので少ししょんぼりする出来事があったのはここだけの秘密の話。

 

 

小間物屋の店主の傍ら、出張ベビーシッターや家政婦のようなことも請け負っている。
なかなかに忙しく、充実した日々を過ごしていた。
ある家の風呂掃除をしていて、一瞬気が緩んで滑ってしまった。軽く頭を打って、くらくらしていたのだが……。
「はっ!なんってぇことでしょうや。ここはどこなんですかいねぇ、八っつあん~」
気がついてみるとこのシェルターの風呂場にかわっていたのだ。
ちなみに八っつあんなどという人間はそこにはおらず、これは彼女のおきまりの口上であり、独り言のようなものだ。
彼女は幼い頃から祖父に連れられ劇場へいっては古民族の小噺を聞いており、その虜となってしまったのである。
だが、その祖父ももう居ない。もっといえばここには知り合いの姿もない。
それでもなんとか状況に適応してここでみんなの世話をしながら暮らすことになった。
食事の用意、掃除洗濯、ベッドメイク……寮の管理人になったかのような気分だ。
ファジー・ネーブル。みためこそ少女のそれであるが、彼女はれっきとした大人の女性……それも妙齢一歩手前、というくらいの女なのである。
小柄な体にダボっとしたエプロンドレス風のフレア型スカートがいっそう彼女の可愛さを引き立てている。
そんな彼女がある日、シェルターの食料庫を整理していたときのことだ。
「ね、ファジー。ちょっとお願いがあるんだけど」
「あらぁ、これはルイン様、お珍しいじゃぁございませんか」
メイドのようなことをしていた手前、人のことを様付けで呼んでしまうのがファジーの癖だった。お相手は少しばかり苦笑している。
ふむ、ふむ、と相槌を打ちながら話を聞いていく。
「するってぇと、お嬢はあの神様ってぇお方にお酒を奉納して、少しでもやる気を出してもらおうと、そういうことですかぃ?」
「ちょっと!あんまり大声ださないでよ。信仰って案外大事なの。皆が思ってるよりもね。だから、食料の管理任せといてアレなんだけど、ちょっとだけ分けて貰えない?」
「良く食べ、良く寝る子は育つとは申しますけどねぇ……あの齢であれだとすこーしばかり不安でございますわねぇ?」
一応、ここの管理者がアズリエルとその弟で、その関係者らしいチカヤとルインが責任者ということらしいので彼女が言うのなら……ということでグラス一杯分だけ酒を持たせた。
「ごめんね、ありがとう。いつも感謝してる」
「いえいえ。ところで、ちょーっとばかり聞きたいことがあるんですがね」
「ん、なに?」
「その、偽装潜伏ってぇのは、どういう仕組みなんですかぃね?」
アームというセキュリティシステムに襲われた人たちの話や、怪物が居るような話は聞いている。だから、このシェルターの維持はとても大事なことだとファジーは考えている。
ルインから小耳に挟んだ『偽装潜伏』はこの世界で自分たちが生き延びる為にとても大切なシステムだと感じたのである。できればそれを活かして遠方でも行動できるようになればと考えている。
「そうね、確かに迷彩行動のようにできたら良いとは思うのだけど……。このシェルターの地下に、大規模な装置を作ってあるのよ。過去の廃材を使ってるから素材が大きくて仕方がないのだけど。それで政府の周波をジャミングしている感じね」
携帯するにはいささか物資も技術も今は不足しているような感じだった。もう少し高度なことができるだけの資材が揃えば、可能にはなるかもしれないとは告げられた。

 

 

ファジーが準備をする係なら、メイン料理長となるのはモンドという生真面目そうな美少年だった。
モンドはアンバーフォートの古民族の中でも『侍』と呼ばれる武門の家系に生まれたのだが、争いごとが嫌いで、武者修行に出されても専ら旅先で食材を集め調理をして、出会った人々にそれを振舞って喜んでもらうことに幸せを感じていた。
以来、彼は親に隠して、料理人を目指す道を歩み始めた。
諸国漫遊をしていていつの間にかこの世界に迷い込んでおり、獰猛な生き物に囲まれてしまった。
大小二振りの刀を腰に差してはいるが、やはり生物であろうと争う気はなく、立ちすくんでいた所をアズリエルたちに救われシェルターに滞在することとなったのである。
「モンドちゃん~。これ、今日の食材ね」
中年の親父が、なにやら大きな魚といくらかの野菜を持っている。
「カミ氏(うじ)、これはどこから……」
「なーに、オジサンにかかればちょちょいのちょいなのよ」
出所の説明は一切ない。このカミという男はときおりこうやって食材を持ってくる。勿論、貯蔵庫の食材を使って毎日の食事は成り立っているのだが、やはり貯蔵できるものに限られてしまうので、こういった鮮度のある食材があるのは素晴らしい事であるのは確かなのだが……。
「いやー、かわいい信者と、ちょっとツンデレの信徒に頼まれたら、オジサンも少しくらいは役に立つとこみせないと追い出されちゃうでしょ?ファジーちゃんにも働かざるもの食うべからずとか言われちゃうしさー」
……動機は割と不純な気もしなくはない。ちょちょいのちょいならば、毎度調達してくるくらい頑張れば良いのにとは思う。
「ならば、ありがたく。夕食(ゆうげ)は我が故郷の郷土料理『サシミ』を振舞うといたそう」
幸い、このシェルター内では遺電子のツールが一部使えるようで、食材には人一倍気を使うモンドは食材に一手間加える。
目を閉じゆっくりと……静かに呼吸を整え、精神を包丁に集中する。気持ちが高まった瞬間、目を開き、包丁を食材にかざしてその必殺技を放つ。
「……浄め(きよめ)……包丁!」
青白い光が食材に吸い込まれると、食材は生き生きとみずみずしくその輝きを増した。
「お、なんかいい感じ?」
カミはそれなりに興味ありげにその様子を眺めていた。果たして『いい』と評価したのは技のほうか、食材のほうか。
「食は医なり。食材自体に活力を与え、口にしたときの代謝を促すのでござる」
綺麗に三枚に魚をおろし、身と骨に分けた。骨はそのまま、汁物の出汁に使うことにして、身は美しく切り分けて皿に盛る。
「皆の好みがわかれば、色々趣向を凝らしたいと存ずる」
「オジサンは酒のつまみになるものがいいなぁ~」
するとモンドは骨の隙間の中落ち部分の一部を香味草と一緒に叩きにし、味噌を加えて軽く火であぶった。
量はさほどないので、その場でカミに試食させる。
「いいねいいね、最高!モンドちゃん。これ、オジサンの好みだわあ」
できれば酒があるともっと最高なんだけどなあ、とぼやくカミを尻目に、モンドは黙々と野菜を煮付けたり、汁を作ったりするのだった。

 

 

エプロンドレスのウサミミ少女と、シャツを羽織ったペンギン少女が外を歩いている。
「アズリエルさんよかったの?チカヤさん、外に出ると怒らない?」
少女が不意に出かけるたびに、戻ってはチカヤ少々のお小言を喰らっている現場に出くわすので、シャツの方の少女は心配している。
「アズでいいよー。アデリーちゃんのほうがお姉さんなんだし。それに今日はアデリーちゃんのお散歩に一緒に行くって言ってあるから大丈夫!」
普通ならば少女たちが夜間に出かけることはあまり推奨されないが、身を隠す意味では夜の方が安全だと今は判断されている。
アデリーがあまり外へでたことがない、という話を聞いて、アズリエルは居てもたってもいられなかったらしい。今はシェルターから少し離れた小高い岡の上に向かっている所だ。
「ほら、ここ!」
てっぺんに差し掛かって空を見上げるように促された。シェルターの周囲ではわずかとはいえ松明や夜光塗料の光があって、あまり気がつかなかったのだが空には無数の星々が光っている。
「……わぁ……これが、お星様?」
絵本で何度かみた事のある風景。暗い空にちりばめられた光。アデリーが住んでいた部屋には窓もなく、こんな空を見るのは始めてであった。
「うんー。本当は雲がないともっといいんだけど」
どうやら、ここはアズリエルのお気に入りの場所らしく、招待したのはアデリーが初めてのようだ。
「皆にはないしょだよー?テオにだって教えてないんだから!」
「テオさんって、アズちゃんの後ろにいつもいる男の子のこと?」
「うん!テオはアズの話、たくさん聞いてくれるから、好き!」
二人が一緒にいるのは、シェルターの中では年齢が比較的近いことも関係しているだろう。本当はバアルのほうがさらに近いのだが、どうにも彼は一日のほとんどをベッドで過ごし、チカヤの作った簡易版のバーチャル世界に浸っているようだった。
「それにしても、こんなに広い空を眺めていると吸い込まれそう……」
広い空間に慣れていないせいもあったのだろう。少しふらふらとアデリーがよろけ、しゃがみこんだ。
「だいじょぶ!?少しあのいわかげで休もう?」
「ええ、ありがとう」
二人が大きな岩の元へ行くと、そこにはアンドロイドのような無機質な肌の色をした白髪の少女がもたれかかっていた。
無地で簡素な貫頭衣型のローブを身にまとっていて、耳につけられたカフスのような金具には番号が記載されている。これが物語の登場人物ならば、『どこからか逃げてきた囚人』という表現がぴったりだ。
「!」
アズリエルが、軽く揺さぶってみる。
「うぅ……ん……」
意識はあるようだが、少し衰弱しているように見える。
「アズちゃん、シェルターにつれていこう?」
「うん!」
二人は白髪の少女を支えながらなんとかシェルターへと戻る。ファジーに容態を見てもらい、モンドに薬湯を作ってもらった。
スプーンを使って口へと流し込むと、なんとか飲み込むだけの力は残っていたようで、薬を与えることはできた。
彼女は数日は意識がはっきりとしなかったのだが、皆で交代して彼女のつきそい介護に当たり、5日目にようやく目を覚ましたのだった。
「ご自分のこと、わかりますかねぇ?」
薬を運んできてそれに気がついたファジーが声をかける。
「……私は勇者です。いえ、勇者になるように、育てられたのです」
ガラスだまのような透き通った青い瞳でまっすぐにファジーを見つめ、少女はそう返事をした。
「なるほどなるほど。お名前をきいてもよろしゅうござんすかね?」
「……ユウキ……です」
あくまでも、小噺のネタでない限り、相手を否定しないのがファジーのいいところだ。ただ、勇者などという言葉が出てくる手前、やはり自分もゲームの中に巻き込まれていると客観的に悟っている。
「では、ユウキ殿はどこからきなすったか、覚えておいでですかぃね?」
「すみません、どこかの施設に……いたような……」
あまりはっきりとは覚えていない。とにかく『勇者』として、世界の危機に備えるようにと育成されてきたことだけははっきりと言える。
「あの、助けてくださった方にお礼を言いたいのです。確か、小さな女の子でした」
「ああ、お嬢たちのことでございますね。では、呼んで参りやしょう」
少し間をおいてやがて、部屋に二人の少女がやってきた。ユウキは丁寧にお礼を述べると、先程ファジーに述べたような身の上を話して聞かせた。
「そっかー。家族とかは?」
「わかりませんが……おそらく会った事がありませんので、居ない物と思われます」
アズリエルの質問にただ、淡々と。無機質に、事務的に答える少女。けれど、彼女と似たように若干無機質な感じのアデリーの感覚は少しばかり違ったようだ。
「物語の中の勇者様と、同じなのね。勇者として育てられて、世界を救うことを求められている。私も何かお手伝いできれば良いのだけど」
「ありがとうございます。ですが、私はまだ、自分にできることも把握できていません。ですから、何かをしようと決めたときに……もし困ったらお手伝い頂けますと助かります」
ユウキの丁寧なお願いに、二人の少女は応えた。
「勿論」

 

 

「記憶の断片にあったのがこのシェルターだった」
居間に見立てた大き目の部屋に通された男は、黒のパンクスーツ風の服にマントを羽織っており、ところどころに装甲がついている。
最も印象的なのは装飾過多な剣を帯びていることだろう。
「俺が見た町の人もだいぶ幻想的な感じだったが、君もこの世界の住人なのか?」
ホフヌングが彼の服装に興味を持っている。
「ぼ、ボクは知ってますよ。そ、その方がしているのは、ネクストヘヴン社で去年の末に開発が発表された『ダークドラゴンズ2』のNPC、ザルスの格好ですよ」
公務員という表向きな顔とは別に、アンダーグラウンド的な世界にも足を突っ込んでいるエドワードが自慢げに不適な笑みを浮かべている。
「ザルス……?」
当の本人は、少しそれに困惑したような顔をした。そんな名前で呼ばれていたような気もしなくはないのだが、記憶がはっきりとしない。
「記憶障害みたいですね。でも、その格好をしているということは相当こっち側の人間だと思ってもいいのではないですかね」
エドワードによれば、このNPCの情報はまだ表には出回っていない。ゆえに潜って情報を得たか、関係者のどちらかということになる。
「エドワード、お前、そりゃ自分もハッキングしましたって言ってるようなもんだぞ?」
キーボードを打ち込む手を止めて、チカヤがはあ、と大きくため息をついた。
「まー、開発側としてあんまり関心はしねーが、今はそういうこと言ってる場合じゃねえ」
「チカヤもわすれてるくらいだもんね?知ってる人がいる方がすごいと思うけどー」
アズリエルに図星をつかれたチカヤががくりと机に伏して崩れ落ちている。
「へぇ、アズリエルお嬢様はちゃんと覚えていたのでございますか」
お茶を入れているファジーはそんな光景ににこにこと微笑んでいる。ただ、内心はハッキングという言葉に引っかかっているのだが。
テオは難しい顔をして、少し心配そうにアズリエルのほうを見ている。
彼女にこっそりと聞いた話だ。彼女が祖父から継いだ『遺産能力』は『生きる記録保管庫』であり、見たもの、聞いたものをすべて記憶しているというものだ。
けれど、それは裏を返せば、嫌なことも出来事も忘れられないということに他ならない。自分よりも小さな子が、そんな重たいものを背負っているのに、何もしてあげられないことが歯がゆかった。
「うん、まだダークドラゴンズの今のシリーズはサービス終了しないけど、10年計画で2にコンバート移行するって計画があるの」
十かそこらの子供が言うような台詞ではないが、アズリエルは会社の中枢にいる重役なので仕方がない。
「おいおい、あんまり部外者にそういうことばらすな。まあ、とにかく、ザルス君はうちの……ネクストヘヴンの関係者とみて良いんじゃないか」
「エドワード君みたいに外の人間の可能性は?」
あくまでも冷静に、ホフヌングは確認する。それをルインが抑止した。
「薄いと思う。そもそも、このシェルターを覚えているなら会社の関係者、それも開発の人間だと考えるのが妥当ね」
「ま、そだね。ここは、会社のみんなの秘密打ち上げ会場に使ってた場所だからねー」
アズリエルもうんうんと頷いている。
「ならば、あなた方もザルス君のことを知ってるんじゃないのか?」
「使っていたのが社員の一部って言っても数十人単位なのよ。部署も結構分かれてるし」
部署が違えば顔を合わせない人もいる。案外そんなものなのかもしれない。
「た、例えば……しゃ……社員はお偉いの顔を知ってても、じょ、上層が社員の顔を全部知ってるとは思えないですからね。割と一方通行ですよ、どんな社会でも」
ハッカーまがいの公務員殿は偉そうな顔こそしているがやはり目をあわさずにぼそぼそとしゃべっている。
「すまない。俺の記憶がハッキリとしないせいで」
皆が正体不明の自分を怪しんでいるのはわかる。だがザルスの中にあるのは、ここよりももっと重い空気の中で魔法使いとして戦っていた自分だけなのだ。
「ま、困ったときはお互い様ってね。イケメンなら尚更歓迎しちゃうわよ」
タスクがウィンクとキスを飛ばしている。だが、このシェルターの人間の大半がどこか記憶に欠損があるのは確かだし、ザルスが悪意を持っているようにも見えなかったので共に過ごすこととなったのである。
「もしかすると、ゲームマスターの一人なのかもしれないね、ザルスさん」
見た感じザルスはアオバと似たような年齢層だ。すこしだけ、ザルスのほうが上に見える感じはあるが、20代そこそこといったところだ。
「じゅ、10年も先のゲームの格好を今する人間がいますかね?」
確かに、アズリエルのさっきの話を持ち出すなら10年計画で、実機テストするにしても終盤だろう。
「あの……この間、世界は上書きされたって言ってたけれど、そもそもここはどういう世界なの?」
最も純粋でシンプルな質問をしたのはアデリーだ。
「うちの会社のゲームがベースになってるっぽいの。まだ全然開発初期だと思ってたんだけど……。都市型近未来ファンタジーって感じかな?ここまで世界が出来上がってるなんて思ってもみなかったなあ」
「企画と設計はある程度上がってはいたが、プログラムはほぼ組んでいない状況だった。本当にベースのプロットやシステムの一部分を入力したくらいだったな。世界こそ近代的ではあるが、おそらくモンスターもいれば迷宮なんかもあるだろう。あと、多分この辺りは僻地で、都市から外れた田舎の地域だと思う」
アズリエルやチカヤも、全貌は見えていないような言い方をする。
「なんと言うゲームなのですか?」
すっかり回復したユウキが重ねて尋ねる。
「タイトルは未定だねー。でも、ラファエルが決めることになってたんだー。あ、ラファエルっていうのはアズの弟で、ネクストヘヴンも含めたエレレートカンパニーの代表取締役社長ね」
ラファエルやアズリエルが祖父から『遺産』を受け継ぎ、会社の実質的な持ち主ということになっていることは、チカヤから詳しく説明された。
「はー。じゅ、十そこらでもう人生を決められるとは、なかなか酷なものですね」
どうにも苦労してきたらしいエドワードが、なにかシンパシーを感じたのか子供に同情の目を向けている。
「お役所の人間がいうと妙に深刻味が増すな……」
ここへたどり着くまで一応の苦楽を共にしたホフヌングは、彼のマシンガントークの内容がそれなりの愚痴で埋まっていた事を思い出す。
「それで、どうすれば元の世界に戻るの?」
色濃いメンバーがこれだけいれば脱線も多くなる。その流れを戻していくのはシャツの少女と、無機質な番号の入った少女だ。
「一応、戻す為というか、ある程度対応の為の元の世界のプログラムは組んでいるんだが……本格的に戻そうとするのならそれこそ会社レべルで十年以上かかるだろうな」
チカヤが頭をかきむしって歯がゆそうにしている。
「そのプログラムもまた、上書きされてしまうのではないですか?」
「そうだろな。俺のはあくまでも、犯人を見つけて安全を確保した上での話だからな?」
そこにアズリエルとルインが口を挟んだ。
「このゲームを終わらせるだけなら、『魔王』を倒せばいいんだけどねー」
「どうにもめんどくさいけれど、私たち含めたこの世界の人間には『役割』というものが備わっているらしくてね。一人ひとりがNPCみたいなもので、声が聞こえたり、文字で指令が来たり、直接思考がそう考えたりってことがあるみたい」
いわば『村へ行けば住民が必ずお決まりの情報をくれる』というようなことだろう。本人の意思に関わらずそういった役割が当てられていて、ただし少なくともここに居る連中は自分の意思でその役割の放棄もできるらしいことをチカヤも付け加えた。
「アナタが『強制』のリンクを断ち切った……?」
自信なさげなザルスがチカヤに向けて控えめに発言をした。なぜか、直感的にそう思ったのだ。
「俺はプログラムを手伝っただけだけどな。ベースを作ったのはそこの女神二人だよ」
チカヤは良くアズリエルとルインのことを『姫様』だとか『お嬢様』などの類で呼んでいるのだが、二人がかなり我侭で彼を困らせていることへの当てつけのようだった。
「あーーーーーー!!!!!」
普段はぼそぼそとしかしゃべらないお役所勤めの公務員が、初めて大きな声をあげた。
「女神で思い出しましたよ!そこのあなた!!」
公務員が指したのは、シャツの娘……アデリーだった。
「は、はい!?」
唐突に顔をじっと覗き込まれ、娘は驚き途惑っている。そしてエドワードはいつもよりだいぶテンションが高まっているようだ。
「どこかで見たことある顔だと思ったんですよ!!アズーリアの王宮の広間にある巨大な絵画!!アレに描かれた水の女神にそっくりなんですよ、あなたは!」
「そういわれりゃ、私も王家広間の一般公開のときに見ましたねぇ。とても美しいが、少しばっかり畏怖も感じたもんでさぁね」
家政婦長もうんうんと頷いて、アデリーを眺めている。
「こんなこともあろうかと!画像は保存しておくものだねー!」
ワールは、以前にアズーリア王家の盗難事件に携わったことがあった。そのときの現場写真がたまたまローカルに残されていたのだ。
今やデータのほとんどはシステムに保存するのが当たり前になっており、持ち歩くものは単身赴任の人間がお守りで家族の写真を1枚だけローカルに保存したりとその程度がせいぜいだ。
「なんでわざわざ、この写真をローカルにしたのぉ……?」
タスクが頬に手を当てて広間の写真を見つめている。
「監視システムのカメラから盗難以前の写真を取り出して、事件後の現場と間違い探ししてたんだよねー。つけたり切ったりするのめんどくさいから、データ落としちゃったんだ」
えへへ、と探偵見習いの少女は明るく人懐こい笑みを浮かべている。
一同は写真の中に写っている絵画とアデリーを交互に見比べて、なんとなく雰囲気が似ているという印象を受け取った。絵画だけを写したものではないから、顔がはっきりしていないのが残念だ。
「アデリーさんは、女神なの?」
テオが純粋な目を少女に向けた。
「いえ、そんなことはない……と思うけど……」
少しだけ、父が自分を外に出したがらなかったことが気にかかる。それにしても、さすがに女神というのは幻想の域すぎてにわかに信じがたい。
「アデリーちゃんが女神様だったら、おじさんとコンビで怖いものなしだねえ」
カミが古いソファの上で寝転びながらそんなことを言っている。そういえば、この男は自称『神様』なのだ。
「アデリーちゃん、きれいだもんね?アズは女神様だったら嬉しいなあ」
一番小さな少女は女神という単語にときめいているようだった。
「あらあ、私も女神になりたいわあ。でも美しい男神も悪くはないわね」
羨ましそうにタスクが絵画を眺めている。煌びやかな物が好きらしいのでこういうものには憧れを感じるのかもしれない。
「おいおい、盛り上がるのは良いが、とりあえず話進めても良いか?」
制するチカヤの一言で、ひとまず女神アデリーの話は置いておくことになった。
「強制的な役割の解除もそうだが、基本的にこの世界では『不穏分子』的な俺たちの遺電子はこのシェルターの外では使えなくなっている。だが、皆が連絡を取れるように特殊な電波を作り出して、俺たちだけで通信できる手段だけは確保してある」
チカヤはなにやら箱を持ってくると、その中には鳥かごのように何本かの金属線を張り巡らせた球形の小さなアクセサリーが人数分入っていた。昔の産物で言うならば、超小型携帯電話、というところだろう。それを一人ひとりに渡した。
「遺電子のほうもおいおい何とかはするつもりだが……何か方法を見つけたら教えてくれ」
「あ、わ、私から一つ、て、提案してもよろしいですか?」
公務員の美形だが根暗っぽい男が申し訳なさそうに手を上げている。
「先程、NPCの役割を得ているとおっしゃっていましたが、か、仮に遂行しなくても、それに乗ったフリだけするのも我々の行動を隠すには宜しいと思うのです」
もし監視されている可能性があるのならそれに乗っかっていたほうが怪しまれにくいのではないかというのがエドワードの論らしい。
「一理あるかもしれんな。まあ、皆に任せる」
強制はしないのがチカヤ流のようだ。
「それで、さっきの魔王を倒すというのはどういうことでしょうか?」
「さっき言った"役割"には『魔王』や『勇者』も入ってて、『魔王』を倒せば勇者と魔王の役割は解除されるの。ゲームクリアの目的は『魔王を倒すこと』だから」
役割がなくなれば、この世界の縛りから解放されるかもしれない。開放されれば、今の監視システムのセキュリティの隙間を縫えるかもしれない。
「具体的にどんな役割があるとか、もうすでにわかっているのかしら?」
「どんなカードが切られているかは本人にはわからないし、他者がヒントを握っていてもミッションによってそれが伝えられないこともあるよ。でも、種類だけなら、教えられるかも」
この世界の全ての人に役割が当てられているので全てを話していたら一生かかるので大まかに区分をいうなら、勇者とその従者たち、魔王の手先、信仰者、平民、権力者、傍観者、狂者……そんな文字が旧式のパソコンの画面に入力されていく。
「傍観者って、見てるだけしかできないってことなのかな……」
少し寂しそうにその文字を見つめているのはテオだ。ついこの間、自分もやるときはやると啖呵を切った手前、もしその役割だったら悲しすぎるからだ。
「詳細はこれのシナリオプランナー集めないとわからねーな。まだ全然進んでなかったんだぜ、会議」
それなのにこれだけの世界が出来ているのはどういうことなのだろう。やはり、会社の関係者がひそかに開発を進めていたとしか思えない。
「UnKnownって書いているのがあるから、まだ他にも隠されてる役割が幾つかあるみたいだけど……」
アズリエルの引き出しの中にはどれほどの情報があるのか皆目見当がつかないが、不安を覚えたパシフィカがそれを口にする。
「例えば役割が魔物とかだったとしたら、殺されてしまったりするの……?」
「ゲームだったら死なないけど、この世界が現実とリンクしてるんだったら死んじゃうかも……」
空気が一気に重くなる。
「皆は帰りたいの?別にリアルに還らなくてもよくない?住めば都と言うじゃない?」
ダイブしていたバーチャル世界に飽きて、まるで架空の現実に戻ってきたバアルが空気の色を変える。
「元の家族に戻りたい人もいるだろうし、誰かに監視されているかもしれない世界でのんびりと生きていけるのかな……?」
アオバは自分の名をつけてくれた人のことを思い出そうとするが、顔がはっきりと浮かんでこない。やはりこの世界に来たときの記憶障害だろうか。
「この世界が安全って確証がまるでないんだ。このシェルターで一生過ごすつもりならそれはそれで構わねえが、それすらも危険がないとは言い切れないのが現状だな」
バアルの意向を否定しないのは、帰れない可能性が0ではないからだろう。それでも開発側として何も動かないわけにはいかないのがチカヤのおかれた立場なのだ。
「俺は別に皆が自分で選んで思うようにしたら良いと思うからよ。ただ、皆に迷惑かけるなら、ここから出て行ってからやってくれな」